〈試読レビュー〉電撃文庫「青春デバッガーと恋する妄想#拡散中」!!
電撃文庫11月新作「青春デバッガーと恋する妄想#拡散中」!
公式の試し読みについて、レビューさせていただきます。
青春デバッガーと恋する妄想#拡散中
著者:旭 蓑雄
イラスト:白井鋭利
拡張現実に描き出されたのは、君の傷痕(バグ)――
可笑しくて痛々しい、アキバなぼくらの青春模様。
二次萌え至上主義の歩夢がアキバ特区で偶然出くわしたのは、スクールカースト最上位のいけ好かないクラスメイト、衣更着アマタ。
――普段オタクを蔑む彼女が、何故こんなゴリッゴリの萌えARゲームに夢中になっている? まさかこいつは――。
だが歩夢がアマタに近づいた時、特区を埋め尽くすAR(拡張現実)空間に重篤な異変が発生。それは、隠れオタとして自分を偽り続けていたアマタの、とある悩みが引き起こしたものだった。
そんな(ちょっと面倒な)彼女の相談相手になった歩夢。すると、腹黒ロリっ子の瑠璃や金髪たわわなコスプレ女のノエルと、歩夢を取り巻くオタショップのバイト仲間までもが、次々とアキバに異変を発生させていき……?
誰にも知られたくない秘密を胸に、時には傷つき、時には傷つけながら。ぼくたちのちょっぴり歪んだオタクな青春が始まる。
オタク主人公と隠れオタクヒロインの青春物語
生粋のオタクである歩夢は、クラスメイトでスクールカーストトップのアマタが、実は有名なホロ・コスプレイヤーであることを知ったことをきっかけに、彼女の相談相手となります。
試読部分では物語の方向性が全く分かりませんが、おそらく主人公の歩夢とヒロインのアマタが交流し、彼女の秘密にしていた”傷”を乗り越えさせる物語なのだと予想。
歩夢のバイト先には、ロリっ子の瑠璃と、コスプレ趣味のノエルという友人もおり、彼女たちも巻き込んで、青春物語は紡がれていきます。
主人公の設定に違和感
主人公の歩夢は生粋のオタクで、クラスのカースト上位であるアマタを疎んじていました。クラス内ヒエラルキーに敏感で、若干卑屈になっているキャラクターのように読み取れます。
ただ、彼は初期の時点で同じクラスにオタクの友人がおり、バイト先の瑠璃やノエルといった美少女とも仲良しで、彼なりに充実した生活を送っているという設定。そんな彼が、クラス内ヒエラルキーをそこまで気にするようには思えず、設定に少し違和感を感じました。
ありえない状況ではないと思うのですが、無理やりスクールカーストの要素を入れただけのような異物感があり、物語に入り込めないのが残念でした。
属性が前面に出過ぎたヒロインたち
隠れオタのアマタ、腹黒ロリの瑠璃、コスプレ女のノエルと、それぞれの属性が全面に出た会話が、序盤からいきなり開始されます。主人公視点のモノローグも淡々としており、記号的なヒロインたちとの会話が長々と続くだけのため、早々に読む気がなくなってしまうような印象。
アマタの場合は、オタバレする前に日常描写を先に読者に読ませておかないと、クラスでの様子とのギャップが全く分からないため、面白みが半減してしまいます。瑠璃とノエルはバイト先で同時に初登場しているため、各キャラクターの印象が薄くなっており、”腹黒ロリ”と”コスプレ女”という属性しか伝わってきません。
青春モノでヒロインが魅力的に映らないのは、かなり痛手のような気がします。
以上、「青春デバッガーと恋する妄想#拡散中」について試読レビューを書かせていただきました。
結末まで作品を読めば、実は良い作品なのかもしれませんが、試読部分だけ読んだ限りでは微妙な印象でした。
今回も長文をお読みいただきまして、ありがとうございます。
〈試読レビュー〉電撃文庫「処刑タロット」!!
電撃文庫の新作「処刑タロット」!
公式の試し読みについてレビューさせて頂きます。
処刑タロットって?
著者:土橋真二郎
イラスト:植田 亮
「サドンデス」――それは死のリスクが隣り合わせの脱出ゲーム!
土橋真二郎、最新作!!
「僕はゲームの天才を探していました」 クリア率98%のVR脱出ゲームを、ただひとり“真のバッドエンド”で迎えた高校生の鳴海恭平。その腕前をゲームの製作者である片桐渚に見込まれた鳴海は、死のリスクがあるという裏の脱出ゲーム「サドンデス」に招待される。
鳴海はある人物を探し続けていた――デスゲームに身を晒し続ける“死にたがり”のクラスメイト・梨々花。しかしゲームの中で再会を果たした彼女は、「処刑タロット」と呼ばれる禍々しいカードの呪いに囚われていた! 梨々花を救うためには、危険なゲームをクリアし、すべての「処刑タロット」を集めるしかない。だが、そのゲームには、他にも様々な事情でカードを手にした少女たちが参加していて……!?
天才ゲーマーがデスゲームへと挑む物語
通常98%がクリアする『サークルK』主催のVR脱出ゲームで、50人の参加者のうち、ただ一人真のエンディングにたどり着いた天才ゲーマーの鳴海恭平。
彼は高校で、須野原大地と共に『スポーツ研究会』という同好会に参加しています。彼の元へ、『サークルK』の片桐渚が訪問。真のエンディングにたどり着いた鳴海を、命を賭けたデスゲーム『サドンデス』へと誘います。
とあるクラスメイトを探していた鳴海は、探し人が『サドンデス』に参加していることを聞き、デスゲームへの参加を決意します。
鳴海と探し人との関係性
鳴海は何らかの理由があって、金を集めることに執着しています。また、クラスメイトの梨々花をずっと探しており、こちらにも何らかの理由がありそうです。
金を求めるのは、彼もしくは彼の周囲に、膨大な借金がある可能性。クラスメイトを探しているのは、彼の幼馴染もしくは血縁関係があるなどの可能性が考えられます。
試読部分だけでは何も分からず、続きが気になります。
シリアス傾向の強いキャラクターたち
本作の試読部分に登場する鳴海、須野原、片桐は、高校生とは思えない、大人びたキャラクターたちです。世界観も、デスゲームが高校生たちの身近で開催されていたりと、現実よりもかなり暗めの設定。
あまりキャラクターにインパクトがないため、ストーリーで読者を引き込んでいく必要のある作品だと感じます。特に、ゲームの内容と、鳴海がゲームを攻略するときの演出、ライバルたちの描き方などが重要かと思います。
ゲームが簡単すぎると物語に入り込めず冷めてしまいますし、ライバルたちがあまりにもレベルが低いと作品全てを陳腐に感じてしまいます。
設定と世界観ともに、良作となるためのハードルが高い作品。しかし、どんな結末が待っているのか、非常に楽しみでもあります。
以上、「処刑タロット」について、試読部分のレビューをさせて頂きました。
気になった方は、是非手にとって頂ければと思います。
《内容ネタバレ》ガガガ文庫「弱キャラ友崎くん Lv1」をレビュー!!
ネタバレありで、本作についてレビューします。
※ネタバレなしの記事を希望される場合は、以下の記事をご覧ください。
1巻内容ダイジェスト
「人生はクソゲー」
大人気格闘ゲームのアタファミにおいて、国内1位をキープする、"nanashi"こと友崎文也。彼は、アタファミで国内2位の"NO NAME"とオフ会をすることになり、そこで"NO NAME"が同じクラスのパーフェクトヒロインである日南葵だと知ります。
日南から生き方の全てをダメ出しされた友崎は、「人生は神ゲー」と評する彼女の言う、人生のルールを学ぶことになります。
表情のトレーニングから開始し、姿勢や服の選び方、髪型なども含めて、マンツーマンで葵から一つずつ"人生のルール"を学ぶ友崎。日南から出された、泉優鈴との会話も成功させ、少しずつ自信を付けていきます。他にも同じクラスの菊池、七海、夏林とも少し交流を開始し、世界が広がり始めます。
人間関係において、"空気"を読むことが、非常に大切だと理解し始めた友崎。日南から、彼女自身が取り組んでいる「話題を書いた単語帳」などの工夫を教えられ、彼女自身もとてつもない努力をしていることを知ります。
友崎の変化が周囲にも認知され始めた頃、友崎は図書室でのちょっとした出来事がおこります。菊池の好きなアンディ作品の秘密の挨拶を、友崎が知ったかぶって使ったことで、彼女は友崎がアンディ作品のファンだと勘違い。日南からは、勘違いを利用して、菊池をデートに誘うように言われますが、友崎はあまり気乗りしない様子。
菊池とのデートについて悩んでいると、同じく何かに悩んでいそうな泉に出会います。泉は、想いを寄せる中村が、友崎へリベンジするためにアタファミの練習ばかりして、自分に構ってくれないことに悩んでいました。彼の役に立ちたい泉は、友崎にアタファミを教えて欲しいと依頼してきます。友崎はその申し出を承諾し、アタファミの指導を開始します。
アタファミの指導を通じて、泉の悩みを聞いた友崎。空気を読んで、自分の意見を言えないという彼女に対し、"今からでも変われる"という強い言葉で励まし、二人は少し仲良くなります。
泉がアタファミの腕をある程度上げてきた頃、中村は友崎にアタファミのリベンジマッチを申し込みます。練習によって腕を上げた中村ですが、友崎には敵わず、連敗し続けます。彼が集めたギャラリーのうち、紺野エリカが中村を非難し始め、更にアタファミをも馬鹿にしてしまいます。
友崎は中村の努力を笑い、更にアタファミをクソゲーと言い放った紺野を一喝。場の空気を読まずに、自分で努力をせずに、中村を笑った紺野を強く非難します。友崎にアタファミを習った泉もそれに同調し、居たたまれなくなった紺野は友人を連れてその場を去ります。
結局菊池に本当のことを話し、映画に誘わなかった友崎は、後日日南を映画に誘います。現実で、自分の努力によって日南をデートに誘えた彼は、人生というゲームにおける、自分の進歩に喜びを噛みしめるのでした。
人生というゲームと向き合った主人公
本作は、人生に後ろ向きだった主人公が、日南と出会って変わっていく物語。
日南の話す内容は、人間関係の自己啓発本に書かれているような内容が多く、それだけでは"小説" ではなく”啓発本”になってしまいます。人間関係のセオリーを説明しつつも、主人公がその内容を自身で判断した上で行動しているため、本作は面白い物語になっているように思います。
以上、1巻のネタバレレビューをさせて頂きました。
題材的にもライトノベル読者層にマッチし、更に"ゲーム"という要素を絡めることで、とっつきやすい面白い作品となっています。興味のある方は、是非手にとって頂ければと思います。
今回も長文をお読み頂き、ありがとうございます。
フリーダムノベル「黒の魔王」シリーズの魅力をご紹介!
フリーダムノベル「黒の魔王」シリーズ!
ネタバレなしで本作の魅力についてご紹介します。
黒の魔王って?
著者:菱影代理
イラスト:森野ヒロ
黒乃真央は極悪な容姿だが、中身は普通の文系男子高校生。
ある日の放課後、謎の頭痛によって気絶。彼が次に目覚めた時、始まったのは凄惨な人体実験と、過酷を極める殺し合い。名前を奪われ、意志を挫かれ、思い出さえも消されてゆく絶望の中に、一筋の光が差し込む。それは希望か、はたまた、新たな絶望への誘いか
剣と魔法の異世界召喚ダークファンタジー
救いのない異世界の物語
普通の男子高校生の黒乃が異世界へ召喚されるところから、この物語は始まります。凄惨な人体実験、殺し合いを生き抜いた黒乃は、ボロボロになりながらも異世界を生き抜いていきます。
黒乃が苦労して関係を築き、仲良くなった人たちでも、あっさりと命を奪われてしまうような厳しい世界観。残酷な現実を乗り越え、黒乃は戦い続けます。
心は壊されていない主人公
異世界へ召喚されたのち、人体実験などにより身体を改造された主人公ですが、心は壊されないまま、脱走に成功します。
黒乃は、「ベルセルク」の主人公ガッツのような”復讐鬼”にはならず、比較的まともな高校生としての神経を残しているのが面白いところ。鋼の精神で目の前の凄惨な現実を乗り越え、少しずつ強くなっていく主人公を見守ることのできる作品です。
連続する残酷描写と緊迫感
本作の最大の特徴は、”遠慮のない残酷描写”です。親密になった仲間たちですらあっさりと殺されてしまい、物語が進めば進むほど、誰かが死ぬのではないかと緊張しながら読み進めることになります。
ファンタジーの”夢”や”希望”ではなく、”残酷”と”絶望”を前面に押し出した作品。好き嫌いは大きく分かれると思いますが、個人的にはファンタジーの”暗い”部分を思う存分描いている本作は、非常に面白い作品だと思っています。
以上、「黒の魔王」シリーズの魅力について記事を書かせていただきました。
「小説家になろう」の方でも読めますので、未読の方は是非お試しいただければと思います。大体、週1ペースで更新されています。
《内容ネタバレ》「幼馴染の山吹さん」をレビュー!!
電撃文庫「幼馴染の山吹さん」!
1巻をネタバレありで、レビューさせていただきます。
※ネタバレを含みますので、作品未読の方はご注意ください。
※ネタバレなしの紹介をご希望の場合は、以下の記事をご覧ください。
1巻内容ダイジェスト
青葉喜一郎は小学生の頃、クラスメイトの男子から揶揄われる幼馴染の山吹灯里をいつも守っていました。しかし時は流れ、二人が高校生になった時、その関係はいつの間にか疎遠になっていました。
昔は守るべき女の子だった山吹は、今では”自他ともに認める世界一かわいい女の子”へと成長。数多の男子から言い寄られるも、彼女は全ての告白を断っていました。そんなある日、校内の桜の木の下で、彼女は”青春の呪い”をかけられてしまいます。
山吹にかけられた”青春の呪い”は、「不干渉の呪い」と呼ばれ、くしゃみをすると、二時間程度物に触れたり干渉したりすることが出来なくなるものでした。偶然にも彼女が呪いにかかるところを目撃した青葉は、呪いを解くべく、彼女と共に青春ミッションへ挑みます。
呪いの精霊、白熊猫小春から告げられる最初のミッションを実行する二人。「夕暮れの廊下を、手を繋いで誰にも見つからずに端から端まで歩く」というミッションでは、途中掃除用具箱に二人で隠れるなどのハプニングはありつつも、なんとか達成します。
次のミッション「夜のプールに忍び込んで、二人で楽しく遊ぶ」が小春から伝えられた際、二人は”記憶”についての注意事項も併せて知らされます。それは、この青春ミッションを全て完了させると、”青春ミッション”に関する記憶は全て消えるという内容でした。
記憶に関する注意事項について、今考えても仕方のないことと割り切った二人は、早速夜の学校のプールに忍び込み、ミッションを遂行。制服のまま二人はプールに入り、水遊びをして青春のひと時を過ごすことで、ミッションを達成します。
最後の青春ミッションは、「二人の過去からの想いをお互いに共有すること」。共有すべき”過去からの想い”に見当をつけるため、二人はショッピングモールへデートに出掛けます。
山吹の希望でらーめんを食べ、スポーツ施設で卓球を楽しみ、ゲームセンターでプリクラを撮る二人。デートを楽しんでいると、近所の七夕祭りのチラシを見かけます。遠い昔、幼馴染の二人は手を繋いで、誰もいない神社の境内の笹に短冊を引っかけたという大切な思い出。二人は、今年の七夕祭りへ一緒に出掛けることを約束します。
デートの終盤、山吹は、疎遠になった原因について青葉に尋ねますが、明確な答えはもらえませんでした。結局、そのままデートは終了し、帰宅することにする二人。帰り道の途中、山吹が車に轢かれそうになるのを、青葉は身を挺して庇います。青葉の身体を心配しつつ、何故いつも自分を助けてくれるのかを問う山吹さんに対し、青葉はまた曖昧な言葉でごまかします。
休み明け、ちょっとしたすれ違いからケンカに発展してしまった二人。小春は、”自分の気持ちを相手に言葉で伝えること”の大切さを青葉に語り、怒って帰ってしまった山吹を追いかけるように助言します。
青葉は、山吹のことが一番大切であること、山吹が”青葉の彼女”と勘違いしていたのは妹であることを言葉にして伝え、二人の気持ちが通じ合います。それにより、全ての青春ミッションはクリアされ、二人の”青春ミッション”に関する記憶が失われることに。「灯里ちゃんがピンチになったら、僕が絶対に助けに行く」という大切な約束を確認し合い、二人の記憶は奪われてしまいます。
山吹が呪いを受ける前の疎遠な関係に戻った二人は、いつも通りの生活を続けます。しかし、何か心に引っかかるものを覚えた青葉は、七夕祭りの日、誰もいない神社の境内へと向かいます。
そこには、同じく何か引っかかりを感じていた山吹も訪れており、驚いた二人は思わず昔のあだ名で呼び合います。何かは分かりませんが、何かを知っているという確信。そこへ、呪いの精霊である小春が現れ、”魂のこもった青春は、そうたやすく滅んでしまうものではない”と、ドイツの詩人の言葉を二人へ贈ります。
すべては忘れ去られた物語。けれど、滅ばなかった物語。二人の青春は、再び始まります。
王道ゆえに心に響くストーリー
疎遠になってしまった世界一可愛い幼馴染のピンチを、普通の男の子が子供の頃の約束を守って救い、再び心を通わせるという王道の展開。王道の道筋の上で、一つ一つの青春エピソードが丁寧に描かれており、しっかりと心に響く物語となっていました。
複雑な伏線や展開を駆使した作品も良いですが、王道をしっかりと描き切った作品もまた良いものだと、読者に感じさせてくれる物語です。
その後の物語について
今回のエピソードで、青葉と山吹の関係にはある程度の決着がみられたと思います。続編としては、二人が更に歩み寄っていくエピソードも良いかもしれませんが、管理人的には、小野塚つばさ、桐山秋人、青葉沙知など他のキャラクターへスポットをあてた物語も読みたいように感じています。
今回のサブキャラクターたちが、山吹とはまた別の”青春の呪い”にかかり、青葉と山吹の助けを借りつつ、青春を謳歌するような物語が読んでみたいと思いました。
今回は電撃文庫の新作「幼馴染の山吹さん」について、ネタバレレビューをさせていただきました。
読者側に大きなストレスを与えない、王道のシンプルな恋愛作品となっていますので、興味がある方は是非ご覧になってください。
今回も長文をお読みいただきまして、ありがとうございます。
ガガガ文庫「先生とそのお布団」の魅力をご紹介!
ガガガ文庫の新作「先生とそのお布団」!
作品の魅力について、ネタバレなしでレビューさせていただきます。
先生とそのお布団って?
著者:石川博品
イラスト:エナミカツミ
まだ「何者」にもなれない「誰か」へ――。
これは石川布団という青年と、人語を解す「先生」と呼ばれる不思議な猫とがつむぎ合う苦悩と歓喜の日々。布団はさまざまな挫折と障害に揉まれながら、それでも小説を書き続ける。ときに読者に励まされ、ときに仲間に叱咤され、素直に、愚直に、丁寧に、ときにくじけて「先生」に優しく厳しく叱咤激励されながら――。
これは、売れないライトノベル作家と「先生」とが紡ぎ合う、己が望む「何か」にまだ辿り着かぬ人たちへのエール。優しく、そして暖かな執筆譚。カクヨムで話題を呼んだ同名短編小説を、大幅加筆修正した完全版。
言葉選びがお洒落な作品
本作をカクヨムで読ませていただいた際、言葉選びが非常にお洒落だったことが、強く印象に残っています。
作品全体に漂う穏やかで暖かな雰囲気を壊さないような、絶妙な言葉の選択。シンプルな文章にも関わらず、読み手側に情景を色鮮やかに伝える文章力と表現力は、まるで歌のようでした。
この物語は読み始めると止まらず、クセになる作品です。
夢を追い求める人たちへ向けたエール
ライトノベル作家の石川布団は、デビューしたものの作品が売れず、次の作品もなかなか刊行できない状態。年下の才能あふれる小説家が次々と魅力的な新作を生み出していくのを見て、布団自身は長らく停滞したままの自分に焦りを覚えます。
猫の「先生」に励まされながら、何度も挫折しつつも、少しずつ少しずつ前に進んでいく石川布団の姿は、夢を追い求めている人たちへ勇気を与えてくれるはずです。
急激な展開はなく、売れないライトノベル作家の生活を緩やかに描いた作品。カクヨム版を読了後、本作から”温かな勇気”を貰いました。
カクヨム版リンク
ガガガ文庫から刊行される書籍版は、カクヨムに掲載された短編を大幅に加筆修正されているとのことで、どんなエピソードが追加されているのか楽しみです。
以上、本作の魅力をご紹介させていただきました。
非常に読みやすい上、心に響いてくる作品ですので、是非お試しいただければと思います。
今回も長文をお読みいただきまして、ありがとうございます。
〈あらすじレビュー〉ガガガ文庫「年下寮母に甘えていいですよ?」!!
ガガガ文庫の新作「年下寮母に甘えていいですよ?」!
あらすじ等について、レビューさせていただきます。
年下寮母に甘えていいですよ?って?
著者:今慈ムジナ
イラスト:はねこと
これからは私があなたのおかーさんです♪
僕は四ノ宮優斗。高校生だてらに自立した立派な大人だ。ある日出会ったのは、中学生にしか見えない自称寮母の九段下あるて。あれよあれよと、彼女の学生寮に住むことになったのだが――。
「これからは私があなたのおかーさんです♪」
なぜか『おかーさん』呼びを強要してくる。しかもそれだけじゃない。「おかーさんの胸で甘えてくださいね?」……だから、自立した大人は年下の女の子に甘えたりしないんだって! 頼むから帰ってきてくれ僕の平穏な生活!
甘やかしたがり年下寮母と人生お疲れ高校生が織りなす新感覚バブコメ爆誕!
斬新な設定のバブコメ作品
”バブみ”をコンセプトとした作品は多数刊行されてきていますが、本作のヒロインは、更に”年下”という要素まで追加した斬新な設定を持っています。
高校生の主人公が、甘やかし系の中学生寮母さんに篭絡されていく物語のようですが、バブみ系の作品が好きな方には、斬新で興味を引かれる設定なのではないでしょうか。
見方を変えれば”妹系”の作品としても捉えることができ、割とターゲット層が広い印象も受けます。
前作とは全く異なるジャンル
著者の今慈ムジナ先生は、第10回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作の「ふあゆ」をガガガ文庫から刊行。 自我と認識の問題を巡る、新時代の黄昏怪異譚を描かれています。
そんな暗くて奇妙な良作を執筆された先生が、今回バブコメ作品に挑戦されており、どのような作品になっているのか非常に気になります。
以上、「年下寮母に甘えていいですよ?」についてレビューさせていただきました。新感覚のバブコメ作品とのことで、当ジャンルが好きな方は必見の作品ではないでしょうか。
気になった方は、是非手に取ってご覧になっていただければと思います。
今回も長文をお読みいただきまして、ありがとうございます。